
仔犬のパレード
第4章 歯
扉を開けた先には
殺風景な廊下が続く
エレベーターなんてものは此処にはない
コツ…コツ…
と寂れた階段を降りていく
…
にしても……今日は静かだな
此処に住んでいるのは俺達だけではないから
こうして外に出る時には、人とスレ違うことだってある
けれど、ご近所付き合いなんて風習は此処にはないから言葉を交わすこともなくて
かといってギスギスしているわけでもない
けど、其処に温かさは少しもない
ただ…互いにトラブル避けている。そんな感じで
あ…
でも一人いたな
俺が智と出掛けた時
智に話し掛けてきた奴が…確かあの時、智に何か言われた気が……あれ?名前はなんだったっけ…
雅紀「翔」
翔「ぇ?ぁ…ん?」
呼ばれて振り向けば
雅紀「それ。大丈夫なの?」
それ?
それ。と雅紀が指差す先は
俺の首
翔「…あぁ。これか。大丈夫だ
ただの買い出しだけだし、問題ない」
それは雅紀の首にも付けられているネックレス
俺のと雅紀、そして潤の首にも、"それ"が填められているが、少しずつデザインが違う
雅紀の首に填められたそれは
俺のに比べると、近代的というのか
大振りの鎖に反して、デザインはとてもシンプルだ
そして、そこにぶら下がるペンダントヘッドには
グリーンの石が填められ、暗い廊下の灯りを
ゆらゆらと照らし返していた
雅紀「ふぅん…」
あれ?
翔「雅紀、外出たことあるだろ?」
そりゃ回数は少ないだろうけど
雅紀「うん。
でもいつも智と一緒だった」
翔「あー…
智が一緒じゃなくても、エンドまでに戻ってくれば問題ない」
雅紀「翔は死なないってこと?」
翔「え?…あ ぁ…俺も雅紀も死なない」
雅紀「なら良かった」
それだけ言うと、雅紀はニコニコと笑う目尻を更に下げて、俺を追い越し外へと出ていく
……ん?なんだ?
なんか嬉しそう?だな
外が久しぶりだから?
…本当はもっと外に出たかったのか…?
気が付いてやれなかったな……
俺は、そんな事を考えつつ
雅紀の後を追って、外へと続く門をくぐる
カチ…。
首から聞こえた機械音
その瞬間から、カウントダウンが始まる
