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仔犬のパレード

第4章 歯






ガサガサ…


ガサ…ガサ…


脚を進める度に揺れる


翔「……っ と…」


一度、抱え直した皺だらけの茶色の紙袋



少し買い過ぎちったかなぁ



腕と腰に、ずっしりと重みがのし掛かる


今にも破れそうなそこには
野菜に肉に、硬いパンにミルクに卵諸々…
そして何より…米。だ


この米っつーのが、くそ重い



それは、智の好物
俺は此処に来るまで聞いたことはあっても食べたことはなくて


まぁ…旨いよ。なかなか旨いんだけど


困ったことに
くそ高い


だって此処ら辺じゃ中々手に入らない
だけど、智は米が食いたいって言うからさ


つか智の稼いだ金だし?
それに米食いたい。って位しか飯に関しては言ってこないし


だから…これくらいはって思うけど……


雅紀「翔。だいじょぶ?」


翔「…だいじょばないけど、大丈夫だ」


やっぱり くそ重だ


雅紀「くふふ。変なのー」


翔「…そうか?」


今日の雅紀は良く笑う


ガサガサと、雅紀が両腕に抱える
潤にへと買ったモノが入った袋


落とさない様にと
慎重に運ぶその様子に、自然と嬉しくなるのは仕方がない


翔「なぁ雅紀」


雅紀「なにー?」


なんとなしにだ


翔「楽しいか?」


雅紀「ぇ?」


他意はなかった
ただ俺には、そう見えたから


翔「楽しいか?」


そう聞いてしまった


雅紀「………」


雅紀の脚は速度を落とし、その場に止まる


そして
ニコニコと笑う顔がグルリと俺の方を向いた


…あ


その顔は…もう、さっきのものではない
ニコニコ笑う目はボヤけ、何処を見ているのかわからない


これって…



智『翔。雅紀はね…』



…まさか


そう思った時にはもう遅い


翔「っ雅紀いい!答えなくていいか…!」


雅紀「タノシイコトハワルイコトデス
タノシイコトハワルイコトデスタノシイコトハワルイコトデスタノシイコトハワルイコトデスタノシイコトハワルイ……」


カクカクと動きだした口


翔「っ…!」





智『翔。雅紀はね…

心に残る傷は、ずっと深くて闇い

だから気を付けろよ』




智の…真剣な声が聴こえた








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