
仔犬のパレード
第4章 歯
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雅紀と出逢ったのは
智に此処へ連れてこられて暫く経ってからだ
智『翔。新しい弟だよ』
そう言われ
智に連れられて来た男…いや男の子
何処かで見たことがある
何故だかそう思った
その日は、雪が降ってて
でも雅紀は、Tシャツに色の抜けたジーパン
たったそれだけで
そこから見える細い手足は
血の気がなく、真っ白だった
カタカタと震えるそれ
なのに
口角を上げ、目尻を下げ
ニコニコと笑うその顔
"アンバランス"
雅紀は、心と身体の均衡が滅茶苦茶だった
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翔「……まさき…」
雅紀「タノシイコトハワルイコトデス…タノシイコトハワルイコトデスタノシイ……」
ただ、繰り返される言葉
それはまるで
そう。まるで呪文の様に
何度も何度も繰り返される
これは…
俺に言ってるんじゃない
「楽しいか?」の返事をしようとしたんではない
雅紀に…自分自身を今も尚縛り付ける
呪いの呪文だ
翔「雅紀」
雅紀「タノシイ…コトハワルイコト……デスタノシイコト…ハワルイコト……」
翔「雅紀。帰ろう」
雅紀「…タ ノシイコトハ…」
翔「雅紀。俺達の家へ帰ろう」
大丈夫だから…帰ろう
雅紀「……タ………ハ……」
翔「潤に、そのグラス渡そうな」
ずっと抱き締めたままの袋
潤が投げて割ってしまったからと
雅紀が潤の為に選んだグラスが入った袋
雅紀「………」
ニコニコと笑うその瞳に ふ と光が見えた
翔「帰ろう。潤が待ってる」
雅紀「……………ぅん…かぇる…」
そうして俺達は、今度はゆっくりゆっくりと
あそこまでの道のりを静かに歩いて帰った
"悪"が待っているとも知らずに━━
