仔犬のパレード
第5章 里
いや、名はあったのかもしれない
ただ、物心付いた時に此処に居たNo.224に、その記憶はないという話だ
『これだ』
先程呼びに来た中年の男の他に、もう一人
年老いた男は、でっぷりとした指で
古びたテーブルに一枚の写真を出す
No.224は、少し離れた場所からその写真を凝視する
所々破れ、水にでも濡れたのか歪んだそれには、男と幼い少女
『こいつがヤれますかね』
そう訪ねたのは、中年の男
No.224の前に立ち、写真を覗き込む
頭には白髪が目立ち。その髪はベッタリと何かで撫で付けてある
『歳が近い方が警戒されんだろ』
此処で椅子に座って良いのは、年老いた男だけだ
その言葉に、中年の男は再度写真へと視線を落とす
『…あぁこちらですか』
『そうだ。この餓鬼だ』
そう言って、嗄れた声を出し、指に付いた尖った爪で写真の中の少女を刺した