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まだ見ぬ世界へ

第2章 愛のカタマリ

俺が小さい頃に親父は再婚した。

『今日からこの人がお母さんだ』なんてドラマみたいな事を……言われたっけな?

その事を受け入れるのに時間はかかったけど、幼かった俺には嬉しい事がたくさんあった。


離婚する前から明るい家庭とは無縁。

今でこそ寡黙な人ってのがわかるけど……

それが幼い頃の俺には怖くて、甘える事は出来なかった。

離婚してからも持ち帰りで仕事をしていた親父と話なんてできなくて、用意されたご飯をただ一人で食べていた。


でも『お母さん』という存在が出来て、家に帰ると『お帰り』とその人が出迎えてくれる。

温かいご飯を一緒に笑いながら食べる事ができる。


初めて『家族』といる幸せを……知ったんだ。





「潤、まだ~?先、行くよ!」

「よし、今日も完璧」

洗面所から出て来た潤の髪型は、寝癖もすっかり直ってバッチリ。

「カズもちょっとは整えれば?」

わしゃわしゃと俺の髪を乱してくる。

「止めろってば」


そして何よりも嬉しかった事。


それは兄弟が出来た事だ。


潤は母さんの連れ子で俺より1つ下。

小さい頃は俺より背が低くて可愛かったんだけど、成長期にあっという間に抜かされた。

見た目だけで言うと完全に『兄』な潤。

昔は『カズにぃ』なんて呼んでくれたけど、今ではすっかり『カズ』と呼び捨て。


「あら、今日は早いわね」

「んー、ちょっと大学で勉強したくってさ」


潤と同じように寝癖全開でリビングに来たのは翔兄。

翔兄もは母さんの連れ子で俺より2つ上。


「お前ら、時間大丈夫なのか?」

「やべっ!行くぞ、カズ」

「潤が遅かったんじゃん!」

玄関へ走る潤を慌てて追いかけた。

「おい、お前ら!忘れモンだそ」

追いかけきた翔兄が、差し出してきた手には2つのお弁当。

「「あっ!」」

潤と2人で目を合わせる。

「ほら、行ってこい!」

「「行ってきまーす」」

久しぶりに翔兄に見送られて家を出た。

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