まだ見ぬ世界へ
第5章 さよならの恋人
「すみません、明日早いんで……」
残っていたお酒を流し込んで席を立つ。
「おー、そうか」
俺のスケジュールなんて知らないからその言葉が嘘だなんて誰も気づかない。
『仕事』って言えば誰も引き留めはしない。
「じゃあ、またなー」
「失礼します」
ペコっと頭を下げると足早に店を出た。
『二度とねーよ』
俺は心の中で本音をぶちまける。
アプリでタクシーを呼んで待っている間、俺は電話帳を開いた。
さっきまで一緒に飲んでいた人の電話番号を表示させると、削除ボタンをタップする。
確認画面が出て来るけど何の迷いもなく『はい』をタップする。
もう何人、電話番号を消しただろうか……
ただでさえ件数が少ないのに今は怒涛の勢いで減ってる。
でも別に後悔はない。
ご飯を奢ってもらっていて失礼かもしれないけど……
どっちが失礼だって話。
『お前は俳優としてやっていける』
休止後、そんな事を俺に言ってくる人がいた。
さっきも言われたし、それを言う人は1人や2人じゃない。
俺はまず……俳優じゃない。
どんな仕事だって『嵐』の二宮和也としてオファーが来てる。
そして俺はアイドル。
『嵐』という看板がなければ俺はドラマにも出ることもなかったし、映画にも出ることはなかった。
だからこそ、『嵐』という看板を背負って、全力で与えられた仕事をこなしてきた。
その言葉に深い意味はないのかもしれない。
俺を励ますために言った言葉かもしれない。
でも俺はその言葉をそんな風に受け流すことは出来ない。
その言葉の前には何が入る?
『嵐』は俺が……
俺らが大切にしているモノだ。
別にそれを共有して欲しいわけでもないし、して欲しいとも思わない。
でも『嵐』をわかってない人が、『嵐』の存在を勝手に消してんじゃねーよ。
タクシーが目の前に止まりドアが開いたので、俺は目を袖で拭いながら乗り込んだ。