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まだ見ぬ世界へ

第2章 愛のカタマリ

【翔side】


「翔、部屋決まったの?」

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出していると、洗濯を終えたお袋が俺に声をかける。

「んー、なんかこれって部屋なくてさ」

今日もいくつかの物件を見に行ったけど、契約までには至らなかった。

「結局散らかるんだから、どんな部屋だっていいんじゃないの?」

「俺だってこだわりがあるの」

「こだわりって……ふーん、彼女でも呼ぶの?」

「ぷっ…げほっ、ごほっ、ち…違うから!」

予想だにしていなかったお袋の言葉に、飲んでいたミネラルウォーターが気管に入って咽る。

「動揺しちゃって。まぁ、吟味するのは構わないけど、3月中には決めなさいよ」

「……わかったよ」

モヤモヤしたの気持ちを振り払うように、開けていた冷蔵庫の扉を勢いよく閉めた。


部屋になんてこだわりはない。

ただ寝るだけだし、大学から近ければ何の問題もない。


問題なのは俺自身の気持ちの問題。


「かーさん、明日俺もカズも昼いらないから」

潤の言葉にまた胸がざわついた。


ここ1ヶ月、潤の行動すべてが俺の心を掻き乱す。


「あら、出かけるの?」

「うん、ちょっと買い物」

「なら、翔も一緒に行ったらどう?これから色々物入りだし、物件はまだでもちょっとは進めてかないと」

「いや、俺は……」

「わかった」

「おい、潤!」

感情と意図が読めない潤の返事。

「兄貴のご飯もいいから」

「じゃあ私は、お友だちとランチにでも行こうかしら」

「ちょっと、お袋っ!」

俺の叫びに耳を貸すことなく、鼻唄混じりにスマホを弄りながら寝室へと向かっていた。

「ちょっと待て、潤」

「……なに?」

追いかけて肩を掴んだけど、振り向くことなく返事だけ寄越した。

「どういうつもりだ?」

最近の潤への行動へのイライラと今の態度に、俺は掴んだ肩の手にさらに力を込めた。

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