まだ見ぬ世界へ
第8章 幸福論【再会】
「あー、これもダメ……これもダメだっ!」
クローゼットを何度確認したって、小奇麗な服は持ち合わせていなかった。
「服装を気になさるなんて、意外です」
「うわっ、い…いつから居たんだよ」
三田園さんが後ろからいきなり声をかけてくる。
「ずいぶんと前からでございます」
怖っ、存在を全く感じなかったんだけど……
「あのさ……なんとかこの中でマシなコーディネートできない?」
「はい、それでは……こちらとこちらでよろしいのではないかと」
パパっと迷いなく選んで渡してきたのは、クローゼットに入っている服じゃなくて、さっき畳んだ白いTシャツに青い短パン。
「おい、これっていつものじゃん」
その上、外着でもなく部屋着。
「はい、いつものでございます」
いけしゃあしゃあと答える三田園さんにもはや返す言葉も思い浮かばない。
「何を迷う必要があるんですか?」
「迷うに決まってんだろ。明日は、お見合いみたいなもんだろ?恰好だけでもちゃんとしな……」
明日はマッチングシステムで俺がピックアップされたΩ性に会いに行く。
つまりは……和也に会いに行く。
「明日はお見合いではございません」
「えっ?」
「実家に、戻られるんです」
「は?なにいって……」
真っ直ぐ俺の目を見つめて言い放った言葉は、冗談なんかなじゃない。
確かに和也と会う場所に指定された場所は実家だ。
だから行くだけで、俺の中では実家に戻るなんて選択肢はないし、もちろん戻るつもりはない。
「ちょうど契約の更新月だったので、退去する旨は大家さんに伝えていますし、引越しの準備もほぼ終了しております」
「終了?おい、待て!」
スタスタとリビングに戻っていく三田園さんを追いかけると、山積みになった段ボールが場所を占領中。
「わたくしも屋敷に戻ります故、もし実家にお戻りにならないのであれば、智さまご自身で……」
してやったりとばかりにニヤリと笑う三田園さん。
「戻ります」
選択肢はひとつしか……なかった。