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まだ見ぬ世界へ

第8章 幸福論【再会】

「智さま、早く押してください」

「わかってる、わかってるよ!……あぁぁ、ダメだっ!」

何度目かの三田園さんの催促に、再びインターフォンを押そうとするがまた指を引っ込め、玄関の前で右往左往する。

「では、わたくしが押し……」

「いや、ダメだ!俺が押す、押すから」

三田園さんの動きを制止し、大きく深呼吸するとボタンに指を伸ばして触れた。

『もー、何やってるの!早く入ってきなさい!』

「は、はい」

押す前になぜか母さんは応対……いや勝手にしゃべりかけられ玄関の鍵がガチャッと開く音がした。


今の状況に唖然としつつも、変わってないな……って懐かしく思えた。


「智…さま?」

「あ、ごめんごめん。行こっか」

久しぶりの実家。

開いた門から玄関までの少しだけ長い道のり。

出ていったあの日と咲いている花は違えど、変わらず綺麗に手入れされて、入ってくる人を気持ちよく出迎えてくれる。


あー、またこの風景……描きたいな。


「絵はいつでも描けます。皆様お待ちですから早く行きましょう。でないと奥様に叱られますよ」

「わかったよ。それに叱られるって……もう俺は大人だぞ」

「大人……ですか?」

クスッと笑うと、俺を置いてさっさと玄関へと向かって行く三田園さん。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

早足の三田園さんを慌てて追いかけて行くと、あっという間に玄関に到着。

そして三田園さんは玄関のドアの前でピタッと止まったまま。

「えっ?なに?どうしたの?」

「玄関は智さまがお開け下さい」

スッと一歩後ろに下がった三田園さん。


そうだよな。

大人……いや、長男としてちゃんとしないと…な。


「ありがとう、三田園さん」

「いえ」

ペコっと頭を下げる三田園さんを背に、俺は玄関の取っ手に手を伸ばしてドアをゆっくりと引いた。

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