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まだ見ぬ世界へ

第8章 幸福論【再会】

ゆっくりと広がっていく玄関の風景。

そこも出ていった日と何も変わらない。


けどそこには……誰もいなかった。


「おかえり、智」

「おかえりなさい、智」


あの日、誰にも伝えることなく、そして誰にも見送られる事のなかった玄関に今、俺を出迎えてくれる人たちがいた。


俺が弟……和也に対してした事。

ヒートを起こしていたとはいえ、両親にとっては衝撃的な出来事だったはず。

でもそれを責める事はなかったし、和也から、家族から逃げた俺を責める事もしなかった。


そしてこんな形で帰ってきた俺を、両親は笑顔で出迎えてくれ。


「だだいま。父さん、母さん」

その両親の姿にさっきまで玄関で戸惑っていたのが嘘かの様に、スッと言葉が出た。

「それにしても、その恰好……ふふっ」

「なっ、なんだよ!一応、ちゃんとしようと思ったんだよ」


感動的?な再会は一瞬、いや元々なかったのか……

自分なりにピシッと着こなしていたスーツ姿を見て、母さんがクスクス笑い始めた。


「ホント、そんなところは兄弟ソックリね」

「あぁ、そうだな。おい、和也。早くこっちに来なさい」

両親は目を合わせて笑い合っている。


ソックリって……なにがだ?


そんな事を考えていたら、和也が恥ずかしそうに姿を見せた。

「ぷっ、和也。その恰好……っ」

出かけない限りは俺と同じで洋服に無頓着な和也。

何年着てるってくらいの首元が伸びきっている服だって、着心地がよけれは余裕で着続ける。

そんな和也が俺と同じスーツを着て俺を出迎えた。


母さんの言う通り……ホント、考えることは一緒だな。


「わ、笑うな!兄さんだって同じじゃん!」

そうやってムキになるところも変わっていない。

「まぁまぁ、どっちもどっちよ。まずはお茶にでもしましょ?」

そんな俺たちの小競り合いを笑いながら止めてくれる母さんも、だだその姿を見ている父さんも。


あぁ、本当に帰ってきたんだな……俺の家に。

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