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まだ見ぬ世界へ

第8章 幸福論【再会】

世の中には最低な『α性』がいる。

これから和也が会う人がそれに該当するかはわからない。

もちろんその中に和也がいいと思った人がいれば、それに越したことは無い。


でも、もしいなければ?


もちろん和也には拒否する権利はあるけど、そのためには莫大な罰金を払う必要がある。

結局、拒否権はあってないようなもの。


それだったら気心知れた俺を選べば、全てが丸く収まるんじゃないかって……


「だだね、『兄弟だから』という理由で互いをパートナーに選んで欲しくないの。特に智にはね」

「えっ?なん……」

いつになく真剣な目を俺に向けている母さんに、軽い口調で反論なんてできなかった。

「『互いをパートナーに選びました』それで終わりではないのよ」


『終わりじゃない』

母さんの重い言葉がグサッと胸に突き刺さった。


このマッチングシステムの意味。

それは優秀な『α性』を産むため。


全てにおいて本人を意思を無視し、国家が勝手に決めた責務を和也は果たさなければならない。


「和也の事を考えての智の行動を私たちはずっと見てきたわ。何度それに救われたかわからない。でもそれは兄としでしょ?でも兄として守れることには限界がある」

そう、あの日まで俺はずっと和也のそばにいて、和也を守ってきた。


母さんの言う通り……兄として。


でもこれから和也を守れるのは、和也の選んだパートナー。

そして和也を選んだパートナー。


「それだけは肝に銘じておいてね。でもね、互いを選んでくれたらいいなって思うのも本音なの」

その瞬間、フッと和らいだ表情はいつもの俺たちを優しく見守る母さんだった。


俺も、母さんも、そして父さんも複雑なんだ。

でも俺たちの願いは同じ。



和也が幸せになる事。



「わかった。ちゃんと考えるから」


もちろん兄として。

そして一人の『α性』の男として。

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