テキストサイズ

まだ見ぬ世界へ

第8章 幸福論【再会】

「なんで……何で、止めるの?」

「えっ、だって……か、和也?」

和也の目にみるみる涙が溜まっていき、そしてそれは頬を流れ落ちていった。

「俺は……嬉しかった。今日、兄さんに会えて。兄さんは……嫌だった?」

「そんなはずないだろ!」

あの出来事があって、俺が和也を避けた事、そして和也が俺を避けた事。

それは紛れもない事実だ。


でも俺は決して和也を嫌いになったからではない。


「和也は……俺が嫌いじゃないのか?」

震える声。

俺がそう思う事と、和也からの本心とではダメージが違いすぎる。


嫌いに決まってる。


でも俺を見て笑う和也を見て、心の中で『そうじゃないかもしれない』って淡い期待を抱いた。


「嫌いじゃない。嫌いになんて……なれないよ」

潤んだ瞳だけど真っ直ぐ俺を見つめる和也。

「俺も同じだ」

再び和也の頭に手を伸ばして優しく撫でると、照れくさそうに笑った。


和也の瞳に映るのはきっと一緒に過ごしてきた頃の俺。

俺の瞳に映るのはずっと一緒に過ごしていた頃の和也。



あの出来事から年月は経ったけど、俺たちの根底にある想いは揺るがなかった。


けど、このままじゃ……ダメなんだよな。


「俺は……俺は兄として、和也には幸せになって欲しい」

それは嘘偽りない気持ち。

「そしてその幸せに俺が必要ならばずっとそばにいる」

それも嘘偽りない気持ち。

「それは……兄として?」

「今、聞かれたらそうかもしれない。だって俺は兄としてずっと和也を見てきた。それは和也だって同じだろ?」

和也はコクリと頷いた。


兄弟として俺たちは互いを良く知っている。

それはこれから和也が会う3人に比べれば、俺は安心できる存在なのかもしれない。


でもそれが有利とは限らない。


むしろ兄弟として過ごしてきた事は、『番』という関係になるには程遠い関係なのかもしれない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ