まだ見ぬ世界へ
第9章 幸福論【初対面①】
大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせてからドアをノックする。
「はい」
「営業部の相葉です」
「入ってくれ」
「失礼します」
社長室に入るのは2回目。
前回も社長の息子さんの件で呼び出されたから、今回もその件だろう。
「急に呼び出してすまないね。さぁ、座って」
「はい、失礼します」
サッと移動して腰掛けると社長の言葉を待った。
「早速だが相葉くん、24日は有休を取ってくれ」
「えっ?あ、有給……ですか?」
てっきり和也くんの話をするのかと思っていた俺は拍子抜け。
そしてよりによって24日……世間はクリスマスイブ。
イルミネーションが輝く街並みは嫌いじゃない。
それを見て『綺麗』だとは思うけど、それ想いを誰かと共有することは無い。
すれ違う人たちの手にはクリスマスケーキはクリスマスプレゼント、そしてその隣には家族だったり恋人。
誰も俺の誕生日だなん思ってもいない。
って、当たり前だけど。
でも幼い頃は家族でお祝いしてくれたし、25日にはクリスマス。
昔はお祝いが続いてラッキーなんて思ってたけど、今はお祝いなんてされる歳じゃない。
けどやっぱりどこか寂しくて……
だからこの日は仕事に打ち込もうって決めてる。
「和也に会ってもらいたんだ」
「えっ?24日に……ですか?」
会う日はきっと指定されるだろうとは思っていたが、なぜわざわざ街が賑わうこの日なんだ?
「仕事に打ち込むことはいいことだが……たまには満喫したっていいんじゃないか」
「は、はぁ……」
気を遣ってくれているだろう社長に、実はそれを避けているなんて言えない。
「詳細はまた連絡させてもらうよ」
「はい……わかりました」
俺に選択の余地はないみたい。
サッと立ち上がり社長室を後にしようとしたら呼び止められたので振り返った。
「よろしく……頼むな」
「はい」
気持ちは複雑だけど、社長としてではなく和也くんの父親としての言葉にしっかりと返事した。