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まだ見ぬ世界へ

第9章 幸福論【初対面①】

うぅ…さみぃ。

首元にコートの襟を手繰り寄せて寒さをしのぐ。


遅刻は厳禁だって思って早めの行動をしたけど、さすがに待ち合わせの30分前はないな。

だたどこかで時間を潰すほど余裕はないし、ましてやクリスマスはどこのカフェもいっぱいだ。


てか、なんでここなんだ?


指定されたのはとあるビルの前。

聞いた事のないビルな上、何が入っているのかの情報も全くない。


もちろん和也くんの事を考えたら人混みの多い場所にはいけない事はわかってる。

ヒートを起こす時期ではないと聞いたけど、この人混みの中では想定外の事が起こりかねない。

なによりそんな時、俺は対処できない。


俺は『β性』

和也くん……つまりは『Ω性』の体調の異変に気付かない。


それをわかっているのになぜ社長は今日を会う日に選んだ?


社長の意図が全く分からないし、これからどういう予定になるのかもわからない。


そもそも予定……決まってるよな?

俺が知らない……だけだよな?


今からなんてどこもいっぱいだし、そもそもリサーチなんてしてないぞ。

リサーチするにしても和也くんの情報が無さすぎる。


でも調べないよりはマシだよな。


俺はスマホを取り出して、周辺の検索を始めた。


個室とかあるところがいいよな。


手っ取り早いのはカラオケ?

いや、人前で歌うのが苦手だったダメか。


あー、食事もあるじゃん。

おしゃれな感じだったら洋食?

いや、中華?

って、俺が好きなだけだし。

和風の方が好きかな?


あぁぁぁぁぁぁ、全然わかんねー!

なぁぁぁぁぁぁ、どうすりゃいいんだよ!


「あ、あの……」

遠慮がちに声をかけられて振り返ると、鼻先までマフラーで覆っている人が少し上目遣いて俺を見ていた。

「相葉さん……ですか?」

「は…はい」

「初めまして……和也です」

覆っていたマフラーをずらすと、優しく俺に微笑んでくれた。

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