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まだ見ぬ世界へ

第9章 幸福論【初対面①】

「なぁぁぁぁ、また負けたっ!」

持っていたコントローラーをポイっと投げ捨てて項垂れる。

「結構ギリギリでしたよ、俺も」

確かにさっきは僅差で負けたけど、最初の方は完敗。


ってか、さっきから何連敗中?

そもそも俺……勝った事あった?


「めっちゃ強いし、上手すぎでしょ!」

「ずっと家でやってたんで」

「……そっか」

家に出る機会がなければ、自ずと遊びは決まってくる。

ゲームなら一人だってできるし、オンラインなら誰かに会わずとも対戦は可能だもんな。

「悲観的にならないでください。外にはなかなか出にくいってのもあるけど、元々インドア系でしたから」

その表情に嘘はなかった。

和也くんは和也くんなりの楽しさを見つけていたのかもしれない。


勝手に和也くんの置かれている状況を憐れむのは失礼なのかもしれない。


「でも相手の顔やリアクションを見ながらゲームするのはもっと楽しいですね」

弾けるような笑顔を俺に向ける。


そんな事で大袈裟だなって思う人もいるかもしれない。


だって俺にとって友達とゲームってのは当たり前。

でも和也くんにとっては初めての経験。


そしてそれが楽しいって感じてくれたこと、そして初めてが俺っていうのは嬉しい。


「それは和也くんが勝ってるからじゃないの?」

「ふふっ、そうかもしれませんね」


こうやって冗談を言い合えるのもね。


「よーし、次こそ勝つ!覚悟してよ!」

放り投げたコントローラーを拾って、スタートボタンを押した。

「勝てるといいですね?」

クスッと笑う和也くんを見て、だいぶ緊張感も解れてきたかなって思う。

もちろん、俺も含めて。


けど、そろそろ真剣な話をしなきゃだな。


でも……もうちょっとだけ。


「雅紀さん?」

「あ、ごめんごめん」

俺は慌てて使うキャラクターを選んだ。

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