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まだ見ぬ世界へ

第9章 幸福論【初対面①】

俺は過去の出来事、そしてその時の気持ちや考え方も含めて全て話した。

和也くんはそれをだだ黙って、聞いてくれた。

「ごめんね?こんな話聞かせて。嫌な思いしたでしょ?」

「いえ……相葉さんは父が言う通り、ちゃんと俺に向き合ってくれるんですね」

「えっ?」

和也くんの方を見ると、優しく微笑んでくれた。

「俺は嬉しかったですよ?話を聞けたこと。過去の事なんて話さなければそんな出来事を俺が気づくこともないし、調べようもない。でも相葉さんは自分の評価が下がるとわかっているのに話してくれた」

「でも俺は……」

和也くんに嬉しいだなんて言われる資格はない。


俺はあの時『Ω性』を見下していたんだ。


「だってその出来事があったからこそ、相葉さんは変わってくれた。だからこそ父の会社に入社してくれて、そして俺に会ってくれた」

「いい風に捉えすぎだよ」

確かにあの出来事で俺は変わった。


『α性』でもない。

『Ω性』でもない。

『β性』の俺を必要としてもらえるため、だだそれだけのために努力をしてきた。

そしてその結果、俺を社長が必要としてくれた。


俺をあの日否定した人と同じ『Ω性』の和也くんのために……


でも結局は自分のためでしかない。


過去の過ちを償いたいだけ。


「でもどう捉えるかなんて、人それぞれだと思いますよ?相葉さんが最低だって思った過去の事を聞いても、俺の印象は変わりませんよ」

変わらない。

はっきりと和也くんは言い切った。

「じゃあ相葉さんは俺の事、優秀なα性を産むだけのΩ性の男って思って……」

「そんな事、思う訳ない!」

和也くんの言葉を遮って俺は即座に否定した。


確かに、あの人を下に見ていた。

だからこそ臆病になる『同性』への告白ができた。


でもそんな風にあの人のことを見た事なんて一度もない。


好きだった。

その気持ちに嘘なんてない。

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