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まだ見ぬ世界へ

第10章 想いを紡ぐ







「すみません、お先に失礼します」

先生方に挨拶をし、職員室を後にする。


この学校に赴任して3年目。

ここは俺が小学生まで住んでいた町で、ずっと行きたかった場所があった。

赴任して1年目はバタバタで、2年目は花見の場所取りに駆り出されて来ることができなかった。


少し長い石造りの階段を登っていくと、桜の木が徐々に見えてくる。

あの日と変わらず綺麗な桜を咲かせ、風が吹くとハラリと花びらが舞う。


でもあの日と違うのは、桜の木の下に立っているのが俺の学校の生徒だってこと。


俺はゆっくりと桜の木に近づいた。

「ねぇ、キミ……」

俺の問いかけに生徒はゆっくりと振り返る。


琥珀色の瞳

スーッと通った鼻筋

細く、シャープな顎にホクロ

大人びたパーツが揃っているのに
童顔……というよりは子犬みたいな顔


マズい。

また、悪い癖が出た。


どうしても人の顔を見ると、特徴を確認してしまう。


でも、良い顔してる。

こんな生徒いたら見逃さないはずなのに……


この景色のせい?

感傷に浸っているから?


「……失礼します」

「えっ?」

頭を下げ、再び見つめた目には涙が溜まっていた。

「ちょっ……」

下を向いたまま俺の横を駆け抜けると、彼の髪に乗っていた桜の花びらが地面に落ちていった。


その落ちた花びらの下……

そこにはあの日、2人で埋めた首輪が埋まっている。


あの日、かわした約束をあの子は覚えているだろうか?


俺は覚えてる。


あの日、桜を見つめていた小さな後ろ姿。

そしてポロポロと涙を流す姿。

泥まみれになった顔で桜の木に向かって泥だらけの手を合わせる姿。


あれからあの子は……ここに来たのだろうか。


俺はあの子との約束を果たすことができなかった。

「遅くなってごめんね……」

土を優しく撫で、そっと手を合わして瞳を閉じた。

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