まだ見ぬ世界へ
第10章 想いを紡ぐ
【3年A組】の出席簿を持って美術室に向かう。
我ながら、浮かれている自分が気持ち悪い。
いつもなら始業のチャイムが鳴ってから職員室を出るのだか、まだチャイムは鳴っていない。
「大野先生」
後ろから櫻井先生が俺の名前を呼ぶ。
理科室と美術室は職員室とは別棟にあるので、途中まで一緒に向かった。
「今からA組の授業?」
持っていた出席簿を指差す。
「そうだよ。羨ましい?」
ちょっと自慢げに答えてみた。
「フン、ちゃんと出席簿見ろよ?1限目は俺の授業だし」
「そうなの?」
開いてみると一限目の欄に『化学』の文字。
「で、どうなの?落とせそう?」
「まぁ、少し仲良くなったよ。二宮くん日直てさ、実験道具を洗ってもらう間に話できたし」
「ふーん」
「まぁ、ここ一週間で落ちるでしょ」
キメ顔を俺に向けて来たので、持っていた出席簿で頭を叩いてやった。
「髪型、崩れるだろ!」
手で毛先を整えている。
「ダイジョウブ、オトコマエダカラ」
棒読みで言ってやった。
「まぁね」
もう一発……お見舞いしてやろうか。
「あっ、落ちた時は見張りをよろしくお願いいたします」
ピタッと立ち止まり、頭を下げた。
「はいはい、わかりましたよ」
ヒラヒラと手を振り、階段を上がっていった。
作戦は上々ってとこなのかな?
美術室に入ると同時に始業のチャイムが鳴る。
「座れよー」
俺の声に生徒は慌てて、席に着く。
「出席取るぞ」
生徒の名前を読んでいく。
時より目線を出席簿から離し、どの場所の生徒が返事したか確認する。
そして出席簿の後半に差し掛かる。
「二宮」
「はい」
一番後ろ側の席に座っているのを確認。
何事もなかったかのように残りの名前を呼んでいったが、目線を出席簿から離せなかった。
嘘だろ……
櫻井先生が狙った『二宮和也』
それは、昨日桜の木の下で出会った生徒だった。