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まだ見ぬ世界へ

第10章 想いを紡ぐ

「今月の作品テーマは『春』それぞれが思う春を写生して提出すること」

「大野センセー」

1人の生徒が手を挙げる。

「なんだ?」

「外に行って描いてもいいですか?」

「学校内なら構わない。ただくれぐれも他のクラスの邪魔しないように」

俺の言葉に教室内がざわつく。


あー、これはサボれると思ってるな。


「ただし今日の時点で下書きが仕上がってなかったら居残りさせるぞ」

「先生のケチ―」

「いい意味に捉えろよ。下書きが出切れば後は自由出なんだからな?あと、植物や今ある風景を描くんだから写真撮るのを忘れるなよ」

「はーい」

生徒たちは次々に美術室を後にした。

でも席から動かず、教室に残ったままの生徒が1人。


二宮だった。


普段なら気にも留めないのに……


昨日、あの場所で出会ったから?

櫻井先生が狙っている生徒だから?


今まで生徒のことなんで興味なかった。

そもそも歳のせいか、どの生徒も同じように見える。


二宮も昨日まではその1人だったのに、今は画用紙に向かって鉛筆を動かす姿に目が離せない。


外にも行かず、何を描いているんだろう。


いつの間にか二宮のいる席に向かって歩を進めて近づくと、横から画用紙を覗き込んだ。


そこに広がっているのは大きな桜の木。


下書きの段階なのに、桜の花びらが舞っていて絵には躍動感があった。

ジッとその絵を見ていると視線を感じた。

「あっ、悪い。邪魔したな」

二宮が俺をジッと見ていた。

「いえ……変ですか?」

「いや、そんな事はないよ」

「良かった……」

安堵の表情を見せた。

「外には行かないのか?」

「外に行ったって、俺の描きたい桜はないから」

何かに思い馳せるように遠くを見つめる。

「思い出の桜なのか?」

二宮が見つめる先にあるものが気になった。



「……知らない人には教えない」



「えっ?どういう事?」

俺の問いかけに二宮は応えることな下書きの続きを描き始めた。

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