まだ見ぬ世界へ
第10章 想いを紡ぐ
『もうすぐ、落ちるよ』
この言葉を聞いてから、パタリと櫻井先生の見張り依頼がなくなった。
自由な時間が出来て嬉しいはずなのに、ちっとも嬉しくない。
今日に限ってはモヤモヤが増すばかり。
理由はわかっている。
今、目に入った光景のせい。
放課後、部活の指導のために美術室に向かう。
階段を上る前に理科室の方に目をやると、廊下で楽しそうに談笑する二宮と櫻井先生が見えた。
何でもない光景なのに……
スルーすればいいだけなのに……
目が離せなかった。
そんな俺に気がついたのか、櫻井先生が俺を見てニヤリと笑った。
何だ?
自慢してんのか?
俺はモテますよ…ってか?
俺にかかれば、簡単に落ちるって?
そんな事、興味ねーよ!
って何で俺がイライラしなきゃいけないんだよ!
見せつけるくらいなら、さっさと落とせばいいだろ!
落ちる。
そのワードに一気に頭に上った血が引いていった。
今まで見張りをしていて見てきた映像や声が、二宮と櫻井先生との事に変換されていく。
今度は頭に血が上っていくのがわかった。
櫻井先生は本気なのか?
単なる遊び?
ゲーム?
二宮もただ興味があるだけなのか?
もし二宮が本気で櫻井先生を好きになったら?
情事の後の二人の関係はどうなる?
付き合うのか?
身体の関係を続けるのか?
そしてどうして俺はこんな事を考えるだ?
俺は一体……どうしたいんだよ。
いくら考えても答えは出なかった。
でも数日後、2人の間に答えが出た。
【落ちた。今日見張り、よろしくね】
俺は結局いつも通り、見張りのた理科室に向かった。
準備室のドアの前に立って拳を握りしめるとらゆっくりとドアを5回ノックする。
暫くしたら2人の声が聞こえてきた。
「先生……凄い…おっきい…」
「そうだろ?」
「わぁ、ヌルヌルしてる……」
「ほら、触ってみろ」
いつもの事だ、いつもの事。
気にするな……気にするな。
ダメだ。
聞きたくない。
想像したくない。
止めろ……止めてくれ!
俺は準備室のノブを握り、ドアを勢いよく開けた。