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まだ見ぬ世界へ

第3章 幸福論【序章】

「和也、体調はもういいの?」

食事ができたとお手伝いさんが呼びに来てくれてリビングに行くと、母さんは先に座っていた。

「うん、もう大丈夫。母さんは?」

「まだ先だから問題ないわ」


母さんも俺と同じΩ性。

だからお手伝いさん同様、発情期の辛さを身を持って知っている。


「父さん、今日早いらしいね」

「…そう…ね」

戸惑うような返事とぎこちない笑み。

いつもなら珍しい父の早めの帰宅を喜ぶはず。


だって息子の俺が言うのも気持ち悪い話だけど、父と母は本当に仲がいい。


父さんは……母さんを愛してる。


一人の女性として。

そして一人の人間として。


悲しいけど……

『Ω性』というだけでそんな当たり前の事さえ叶わない人もたくさんいる。


特にα性は生まれ持ったカリスマ性やボス気質もあり、他人を見下す人がほとんど。

けど、父さんは違う。

『α性だから』『β性だから』『Ω性だから』という先入観で人を判断する事は決してない。


だからこそきっと母は父に惹かれたんだと思う。


ただβ性とは違い、α性とΩ性が夫婦になるという事は婚姻とは別に『番』という関係にもなる。

婚姻届を書いて繋がるだけでなく、身体でも繋がる関係。

そしてそのほとんどが『番』の繋がりが先。


つまりはα性とΩ性の本能で繋がる。

だからそこに恋愛感情がない人も多い。


でも2人の間には互いを想う『愛』がある。

だから俺にとっては二人は理想の夫婦。


そして何より父は尊敬できる偉大な人。


でも……俺が努力しても父には追いつけない。

いや、スタートラインにも立てない。


同じ『男』であっても、父のようにα性を持つ男やβ性を持つ男のように『夫』『父』という威厳を持った位置には立てない。



俺は『Ω性の男』だから。



そしてそんな風に思う自分もきっと、同じ人間なのになんて思ってるけど……


『Ω性』を蔑んで見てるんだ。

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