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まだ見ぬ世界へ

第13章 正義のミカタ

ドサッ…

人が倒れた様な音。


『痛っ…てぇ』

絞り出すように苦痛を訴える声。


でもその声は……潤さんじゃない気がした。


俺はゆっくりとギュッと閉じていた瞼を開けた。


「潤さん…っ!」

『もう大丈夫だよ、二宮くん』

うつ伏せで倒れているお客さんの上に潤さんは馬乗りになり、腕を捻り上げていた。

「怪我は……怪我はないですか?」

『ないよ。先輩との訓練に比べたら、これくらい平気平気』

「よ、良かったぁ」

『ちょ、二宮くん!大丈夫?』

「は…はい、なんと…か」

ニカッと笑って見せる潤さんに、緊張の糸がプツリと切れて俺はその場に膝から崩れ落ちた。


ウィーン…


自動ドアが開く音が聞こえ、顔を上げるとバタバタと店内に入ってくる警察官が2人。

『遅いっすよ、先輩』


先輩という事は……潤さんの知り合い?


「悪い悪い。応援呼ばないといけなかったし、状況から見て突入するのも危険だろ?」

『そうっすね。あ、手錠……お願いしてもいいっすか?』

『くそ…っ、離せ!』

手錠と聞いて急に暴れ出したお客さんを見て、ピクっと身体が震えた。

『暴れるなっつーの。あ、大丈夫だからね?』

怖がっている俺に気づいた潤さんがグイっとまた腕を捻り上げた。

『ほらよ』

先輩と呼んでいた警察官の方が潤さんに手錠を差し出した。

『え?俺、今……勤務中じゃないですよ?』

『警察手帳は持ってるだろ?』

『はい。一応、持ってます』

ガサゴソとポケットから取り出したのは警察手帳だった。


えっ?

嘘……潤さん、警察官だったの?


『初めてだろ?犯人、取り押さえたの』

『はい!』

差し出された手錠を受け取ると、フーッと大きく深呼吸して腕時計を見た。

『午前、1時25分。殺人未遂の現行犯で逮捕する』

カチャリとお客さんの手首に手錠がかけられる。

『おめでとう』

『はい、ありがとうございます!』


終わった。

全部、終わったん…だ。


「二宮くん!」

潤さんの俺の呼ぶ声が、遠くで聞こえた気がした。

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