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まだ見ぬ世界へ

第15章 エンドウの花

『だっせーの』

濃い顔の人が慌てる男の背中に向けて言い放った言葉に他の3人は笑った。


男は振り返ることなく、コンビニに止めた車に乗って去って行った。


マジ、助かった。


その瞬間、俺は張り詰めた緊張が解けてその場にへたり込んだ。


『大丈夫?』

真面目そうな人がしゃがんで俺の顔を覗き込む。

「はい……大丈夫です」

『でも、こんな夜にフラフラしてたら、連れてってくれって言ってるのと同じだよ?』

さっきと同じ軽い口調の人に、正論をつきつけられた俺は何も言えない。


でも……そうしたくてした訳じゃない。


『まぁ、いいじゃん。終わった事なんだから……ね?』

その言葉に見上げると、さっき男の手を止めた人はニッコリと俺に笑って見せた。

「あっ……」

『あ、腹減った。げっ、アイツのせいで唐揚冷めちゃったじゃん』

お礼を言おうとしたのに、コロッと話が変わってしまった。

ブツブツと恨み節を言いつつもコンビニの袋に手を突っ込み、モグモグと唐揚げを口に運んでいく。


揚げ物って好きじゃない。

寧ろ、苦手。


でもその食いっぷりに空腹も重なり、唐揚げが魅力的に見えてきてた。


『腹……減ってるの?』

「えっ?」

『ずっと見てるから』

スッとしゃがみ込むと、袋から唐揚げをひとつ取った。

『ほ~れ、ほれ』


完全におちょくられてる。


わかっているのに顔の前でチラつかせる唐揚げに、目は勝手に追いかけてしまう。


ふざけるな。

俺が何でここにいるのかも、どんな目に遭ったかも知らないくせに。


「バカに……すんなよ」

『えっ?』

「だからバカ…んぐっ!」

怒鳴ろうとした声は、口に入れられた唐揚げに塞き止めらる。

『イライラする時は、食べるのが一番』

ニコッと笑う姿に、さっきまでの俺をバカにするような雰囲気はまるでない。


親切心……なのか?


俺は煮え切らないまま、口にある唐揚げを食べた。


くそっ……美味いじゃねーか。

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