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まだ見ぬ世界へ

第15章 エンドウの花

「……ない」

『えっ?』

翔ってヤツが俺の言葉に、口をあんぐりと開けたまま固まった。

「帰る家……ない」

『お前その冗談、笑えねーぞ』

言葉とは裏腹に潤ってヤツが少し笑ってる。

「俺は笑えるよ?冗談じゃないから」


事実を認めちゃえは、自然と笑みが出ちゃう。


『それ……マジで言ってんの?』

俺を見つめる雅紀ってヤツの瞳が動揺からか、ゆらゆら揺れる。


なんでアンタが不安になってんだよ。

それは俺の役目だろ?


『その答えを聞いてアンタは何かしてくれる?俺の事、助けてくれるの?』

自分で突きつけた現実から逃げるように、挑発的に言い放つ。


自分でもわからない。

『家がない』と言ったのは俺なのに、真実を聞き出そうとしてきたら突き放す。


俺、かまってちゃんかよ。


『お前は……どうしたいんだよ?』

『智、言い方がキツイよ』

『雅紀は黙ってろ』

ようやく名前が判明した智ってヤツがゆっくりとこちらに近づき、俺の目の前で立ち止まる。

『どうしたいんだ?』


さっきとは違って……

問いかける口調も、俺に向ける瞳もとても優しかった。


助けを求めても……いいの?


いや、ダメだ!

その優しさに騙されるな!


咄嗟に俺は顔を背けた。


誰かに優しくして貰ったのが久しぶりだから、さっき会ったばかりのヤツの優しさにクラクラしてしまう。


『おい、こっち見ろ』

俺は下を向き何度も首を横に振った。


構うな……

これ以上、俺に構うな!


「こっち見ろ……」

「煩いな!ほっ……んぐっ!」

顔を上げた時、俺の言葉はまた唐揚げに阻まれた。

『もー、言ったでしょ?イライラする時は、食べるのが一番って』

いつの間にか俺の近くに来ていた雅紀ってヤツがニコニコと笑ってる。

『そうだな、食べるのが1番だな』

潤ってヤツがくしゃと髪を撫でる。


くそっ、やっぱり……美味い。


『唐揚げに感動するなよ』

翔ってヤツがクスッと笑うと俺の顔に手を伸ばすと、頬を濡らしたモノを拭ってくれた。

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