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まだ見ぬ世界へ

第15章 エンドウの花

【翔side】


ボーっと窓から外を見つめる智。

潤は運転しているから当たり前だけど、雅紀もジッと前を見つめている。


『そこから自分の家まで向かうって事で』


潤の言葉を聞いて、実家に帰ってからの事を考えているんだろう。

俺もそう。

でもどう考えたって村人が納得する言葉は見つからない。


そして『宿命』に逆らい、放棄する俺たちを許してはくれない。


そもそも俺たちが背負う『宿命』


それをどうしようが、村人に文句を言われる筋合いはない。

自分に何か犠牲でもあるのか?


他人事だと思って、『伝統』だの『代々続く』だのそれらしいことばかり並べる。


自身の『命』を守るために、何も知らずに村に連れて来た人と儀式の日に交わる。

そして何も知らなぬまま『宿命』を背負った命を宿し、子を産んで死ぬ。


それを幾度となく繰り返す者がいて、そしてそれを幾度となく見守る者がいた。


まるでそれが、当たり前かの様に。


『命』を犠牲にする『掟』なんて絶対におかしい。


『しょ…う?』

膝の上で握りしめていた拳をカズの手が包包む。

『大丈夫?』

「あぁ、大丈夫だよ」

心配そうに俺の顔を覗き込むカズの髪を優しく撫でた。


静まり返った車内。

きっとカズも何かを察しているはず。


カズには申し訳ない事をした。


智がしようとしている事を察した俺たちは『恋人のフリをしてくれ』とだけカズに伝え、その理由を告げないままここに連れてきた。

それは今まで『宿命』を背負った人々がしてきた事と何ら変わりはない。


けど、一つだけ違う事がある。


今日でその忌まわしい『宿命』は終わる。


カズが『運命の人』だと伝えれば、次の『宿命』を背負った『命』は絶対に生まれない。


それでで納得するとは思えない。

けど、そんな事知るか。


宿命を背負わせるためだけに生まれる『命』なんてもういらない。


俺たちが最後の『犠牲』になればいい。

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