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まだ見ぬ世界へ

第3章 幸福論【序章】

開けた先には別の写真が入っていた。

いや、隠してあったという方が正しいのかもしれない。

母は何も言わずその写真を俺に差し出した。


そこには飾ってあった写真と同じくらいの幼い俺の姿。

そして幸せそうに笑って俺を抱いている女性と、隣に寄り添い同じように笑っている男性。


「この人たち…は?」

「……和也の本当の父親と母親だ」



これが本当の……家族写真。



「和也を抱いているのは、俺の2つ上の姉だ」

知らなかった。

父に姉弟(きょうだい)がいる事なんて聞いた事も無かったし、亡くなった祖父母でさえ一言も……


えっ?待って……おかしい。

自分の子どもなのに……どうして?


「まさか……」

「俺が生まれる前に姉は施設に預けられたんだ」


信じたくなかった。

自分の血の繋がった子どもを『Ω性』を持つというだけで、捨ててしまう親がいるなんて……


でも納得した部分もあった。


親が親ならば、子は子……だよね?


「ねぇ、この人たちも……俺を捨てたの?俺が『Ω性』だから……」

「それは違う!」

ぼやけそうになる視野に真剣な眼差して俺を見つめる父が映る。

「じゃあ、何で俺を育ててくれなかったんだよ!どうして……手放したりしたんだよ!」

「止めて、和也!」

怒りの感情に任せて持っていた写真を破ろうとしたら、母がそれを奪い取った。

「育てられなかったの」

「だから何で……」

「亡くなったんだ、火事で2人とも……」

俺の言葉を遮って告げられた真実に何も言い返す事は出来なかった。


そしてポツリポツリと語られる、この人たちの事。

でもそれはあまりにも少なすぎる情報だった。


父も姉という存在がいると知ったのは、2人が亡くなってから。

だからどんな人のだったのか、ましてや男の人の事なんてて名前さえわからない。

ただ、籍を入れた記録はなかったけど首筋には歯形があり、きっとこの男性と『番』という関係になっていたんだろう。

そしてその二人の間に産まれたのが俺。


……というのが父の推測だ。

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