まだ見ぬ世界へ
第3章 幸福論【序章】
ただ亡くなったと連絡があったのは、一ヶ月以上経ってからだったらしい。
それから父と母はその場所へと向かい、会うことが出来なかった姉の遺品をと思っていた。
しかしその場所は火事があった痕跡すらなく、整地されていた。
どうすることも出来ずにその場に立ち尽くしていると近所の人が声をかけてくれて、事情を説明すると火事の詳細を教えてくれた。
火事が起こったのは深夜で、火元は隣の部屋。
でも原因はよくわからなかったらしい。
古いアパートだった事もあり、火は一気に燃え広がり、家の中にいた俺と女の人を救出することが出来なかった。
そこに仕事場から火事の連絡を受けた男の人が帰ってきて、水を被ると燃え盛る炎の中に入っていった。
そして先に俺を助けて近所の人に預けると、また家へと入っていった。
それから2人が出てくることはなく、亡くなった。
その時、火事から救い出された俺を受け取ったのがその人だったらしい。
ただ、詳細を聞いた父はある事実をその近所の人に言えなかった。
「姉の名前が違っていたんだ」
「名前が?」
「身分を詐称していたんだ」
聞いたことがある。
自分がΩ性だという事を隠す為に、β性を持つホームレスから戸籍を買い取り、その名前で生きる。
Ω性というだけで、就職活動やそれ以前の大学入試も不利になる。
それを避けるための究極の手段。
でもその手段を使うのは『外』で暮らす人。
施設に預けられた時点でこの人がΩ性であることは明白。
だから隠す必要なんてない。
じゃあ、なぜ……身分を詐称したんだ?
「ここからは推測での話になるが、聞いてくれるか?」
「……うん」
いくら考えても俺の疑問は解決しない。
俺は父さんの答えを待った。
「きっと……和也のために名前を変えたんだ」
えっ?
どういうこと?
自分ではなく俺のためって……
それから父と母はその場所へと向かい、会うことが出来なかった姉の遺品をと思っていた。
しかしその場所は火事があった痕跡すらなく、整地されていた。
どうすることも出来ずにその場に立ち尽くしていると近所の人が声をかけてくれて、事情を説明すると火事の詳細を教えてくれた。
火事が起こったのは深夜で、火元は隣の部屋。
でも原因はよくわからなかったらしい。
古いアパートだった事もあり、火は一気に燃え広がり、家の中にいた俺と女の人を救出することが出来なかった。
そこに仕事場から火事の連絡を受けた男の人が帰ってきて、水を被ると燃え盛る炎の中に入っていった。
そして先に俺を助けて近所の人に預けると、また家へと入っていった。
それから2人が出てくることはなく、亡くなった。
その時、火事から救い出された俺を受け取ったのがその人だったらしい。
ただ、詳細を聞いた父はある事実をその近所の人に言えなかった。
「姉の名前が違っていたんだ」
「名前が?」
「身分を詐称していたんだ」
聞いたことがある。
自分がΩ性だという事を隠す為に、β性を持つホームレスから戸籍を買い取り、その名前で生きる。
Ω性というだけで、就職活動やそれ以前の大学入試も不利になる。
それを避けるための究極の手段。
でもその手段を使うのは『外』で暮らす人。
施設に預けられた時点でこの人がΩ性であることは明白。
だから隠す必要なんてない。
じゃあ、なぜ……身分を詐称したんだ?
「ここからは推測での話になるが、聞いてくれるか?」
「……うん」
いくら考えても俺の疑問は解決しない。
俺は父さんの答えを待った。
「きっと……和也のために名前を変えたんだ」
えっ?
どういうこと?
自分ではなく俺のためって……