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まだ見ぬ世界へ

第15章 エンドウの花

【潤side】


部屋に入ると、白いシーツに包まれたカズが寝てる。


その傍らで俺は智からカズの話を聞いた。


こんな華奢な身体で、必死に母親を守ろうとしたんだな……


ほんのり紅に染まった頬に触れた。

『ぅ…ん』

「カズ」

ゆらゆらと揺れる瞳が俺を捉えた。

『じゅ…ん?』



最初は生意気だって思ってたけど、今は愛おしささえ感じる。


昔から俺の周りには人がたくさんいた。

楽しそうに話す風景を見ながら、どこかそれを冷めた目で見てる自分がいた。


どうせコイツらとは、永遠の付き合いにはならないって。


ただそんな風に思っていても、好きな人は出来る。


でもそう思うからこそ……

『好きな人』には嫌われようとした。

『好きな人』とは距離を取った。


もしかしたら、自然とカズに対してもそうなっていたのかもしれない。

挑発的に絡んで、無意識に嫌われようとしたのかもな。


『手……痛かった?』

「ん?」

『あの時……噛んじゃったから」

頬を包む俺の手にカズの手が重なる。

「大丈夫だよ」

反対の手で髪を撫でると、もっととばかりに頭を手のひらに傾ける。

「カズ」

名前を呼ぶと、ゆっくりと顔を近づけて唇を重ねた。

『じゅ…っ』

腕を首に巻き付け、俺を引き寄せて再び重なる唇。


初めて好きな人と触れ合った。


あぁ、こんなに心地いいんだ。


そう思ったら、溢れる想いを止められなかった。


『カズ…っ』

ベッドから起こし、そのまま抱き寄せた。



……死にたくない。


20歳という決まった人生。

何かを望みながら生きて行く事は無かった。



でも俺は初めて『未來』を望んだ。



今日みたいな楽しい時間を、これからもカズと一緒に過ごしたいって。


それは今まで俺が『好きな人』に対して、ずっと望めなかった事。



『いつまでも続く楽しみ』



この今を続ける為に俺は、カズと生きたい。

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