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まだ見ぬ世界へ

第15章 エンドウの花

『ちゃんと拭かないと、風邪ひいちゃうよ?』

タオルでわしゃわしゃと雅紀が髪を拭いてくれる。

『寒かったろ?これ、淹れたから』

翔がテーブルに置いたのはコーヒー。

「ありがとう」

『ホント……変わったね』


何度聞いたかわからない智の言葉。

そしてその言葉に俺たちは心の中で頷く。



みんなが見つめる先には大きなガラスの窓があり、そこから暖かい陽の光が降り注ぐ。


以前あった『掟』の象徴とも言えるステンドグラスは壊された。

そして『掟』を実行してきた部屋も……


役目を必要としなくなった場所は改装され、俺の家になった。


『カズ、これいる?』

潤が指に摘まんで差し出したのは、あの日俺が飲んだもの。



あの日4人が死んでしまった事に絶望した俺は、潤が持ってきていた薬箱から睡眠薬を取り出して飲んだ。


けどそれは事前にすり替えられていたラムネだった。


でもそのお陰で俺は今、『掟』そして『運命』を乗り越えた4人と生きてる。


死んだと思っていた4人は、誕生日が過ぎた途端に深い眠りに襲われ、俺の声に叫びに気がつかなかったらしい。

きっとその眠りは、『掟』を解放するものだったのかもしれない。



「うん、食べる」

指で摘まんでいたラムネを、ぱくっと口で食べた。

『積極的じゃん?』

「な…っ!」

そう指摘されると、自分のした事が急に恥ずかくなる。

『いいな、俺もしたーい!』

嬉しそうな潤と羨ましいそうにする雅紀。

『カズ、もう1個どーぞ』

翔が掌に乗せたラムネを差し出す。


うん、今度は大丈夫。


「あ…っ!」

指で摘まんだラムネに、ぱくっと食いつく翔。

『ふふっ、美味しい』

『あっ、俺もそっちがいい』

嬉しそうに笑う翔と、ちょうだいとばかりにラムネを俺に差し出す智。

『うーん、究極の選択だ』

そして頭を抱えて悩む雅紀。

「もう……終わりっ!」

恥ずかしくなった俺は、逃げるようにドアに向かって走り出す。


『こら、まだコーヒ飲んでないでしょ?』

外に出たところで翔に手を捕まれ、反対の手を智が握った。

そして雅紀と潤が俺の背中を優しく押す。


あっ、なんか……似てるかも。


俺は家の壁に貼られた飾りを見つめた。

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