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まだ見ぬ世界へ

第3章 幸福論【序章】

「だから俺は施設に連れ戻されていた和也を引き取って養子にした」

だらしなく垂れ下がった俺の手から持っていた写真を取ると、隣に立つ母と一緒にそれを見つめる。


どうして?

親戚の関係にはなるけど、会ったことのない姉の子ども。

そして『Ω性』を持つ男の俺を……?


その答えを求めて俺は父と母を見つめた。


「守りたいって思ったんだ。姉とこの人が命懸けで守ろうとした和也を……」

子どもの頃に見た優しい笑みを浮かべながら父は俺の髪を撫でた。

「お父さんね、私に『和也を養子にしたい』って頭を下げたの」

「母さん、それは……」

「言わせて?だって今の私たちがいるのはお姉さまやこの方、そして和也のお陰だもの」

父が持っている写真を母が手に取った。

「結婚した当初はね……会話らしい会話もなかったの。私への態度も高圧的だった」

「えっ?」


信じられなかった。

今の2人からは想像する事の出来ない関係。


「父さんと母さんはお見合いでね。まぁ、今のマッチングシステムとあまり変わらないわ。いつの時代も、Ω性で生まれた時点でα性の人と結婚する事は決まっているようなものでしょ?」

「この縁談が破断しても結局は別の人とお見合いをする。結婚するまでそれの繰り返しならば、お互いにここで手を打たないかって」

「今思えば、失礼な話だけど……私は承諾して結婚したの。たぶん、色々と諦めていたの。『Ω性』だからって……」


それはきっと母だけじゃない。

『Ω性』を持つ人は、きっと何かを諦めて生きている。


「でもお姉さまは諦めなかった。和也の明るい未来の道を……」

母が俺に写真を差し出した。

「お父さんは変わったの。あなたを……和也を引き取ると決めた日から」

母が父の顔を見上げると微笑みかける。

「和也を守るために主従関係ではなく、ちゃんと夫婦にならないといけないと思ったんだ。写真の姉ように笑える幸せな家庭を築かないといけないって……な」

父も母と一緒に微笑んだ。


写真の二人と同じように……

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