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まだ見ぬ世界へ

第3章 幸福論【序章】

「β性のように自由恋愛は出来ない。相手は限定される。そしてなにより和也は……」

「男……俺は男だよ?」


誰かを好きになった事がないから、俺の恋愛対象がどちらなのかはわからない。

もし仮に『女性』であっても、俺の相手は『男』と決まっている。


ずっと持ったままだった3枚の書類のうちの2枚の写真を見つめる。


少数ではあるが恋愛対象が『男性』の人もいる。


でも……この2人は?


見た限りは世間でいう男前の分類に入る。

その上、α性には人を惹きつける魅力がある。

モテるに違いない。


そんな人の恋愛対象が男のはずがない。


そもそも相手が『男』と知った時点で会ってくれるのだろうか?


いや、興味本位で会う人もいるか。

それに有能な『α性』の子どもが欲しいというだけで、結婚して『番』の契約をする人だっているかもしれない。



結局、行きつく先は……

冷やかしか、子どもを産むための道具。


それのどこに『幸せ』があるんだ?


「俺は会社で多くのα性と接してきた。その中には昔の俺の様に傲慢で自分以外を見下すような態度を取る人もいる」

父さんは違う。

それはわかってる。

わかっているけど、俺にとっての『α性』に対するイメージはまさにそれ。


「でも会った事ない人をイメージだけで決めつけるのか?それこそ、偏見じゃないのか?『Ω性』だからっていう人と何が違うんだ?」

「それは……」

「もちろん『α性』は恵まれている。比べてはいけないかもしれない。でも『α性』も色々と抱えて生きてる人もいる」


色々と言いたい事はある。

『違う』って反論だってしたい気持ちもある。


「父さんも……あったの?」

悲し気な表情を浮かべる父に、その事を聞かずにはいられなかった。

「まぁ…な。それに和也は知ってるだろ?和也を見下さなかった優しいα性を……」

俺は残り1枚の書類に載っている兄の写真を見つめた。

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