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まだ見ぬ世界へ

第3章 幸福論【序章】

その名刺には父の会社名。

でもこの名刺は父のモノではない。


営業課の人で名前の前には主任という肩書き。


「この人…は?」

「会社に入って数年だけど、営業成績をグングン伸ばしていてね。若手のホープだ」

父の会社は何百人という社員を抱えている。

その中で頭角を現し、父に名前を覚えてもらう事は容易な事ではない。


実力を伴ったα性の人なんだろうな……


「彼は……β性なんだ」

「……えっ?」


優良な会社ほど社員の『α性』の割合は大きい。

父の会社は他に比べれは『α性』の割合は少ないけど、肩書きがつく役職になると生まれ持った知能が高い『α性』に『β性』は劣ってしまう。

対等に並ぶのは簡単ではない。


でもこの人は『α性』の先を行っている。


「表には出していないが、相当の努力はしていると思う。それに営業になると人間関係や信頼関係が重要だ。それはきっと『α性』が一番苦手にしている事だ」


人口のほとんどは『β性』で『β性』と関わる事は避けて通れない。

だから自分がいくら『α性』だと言っても、営業先に行けば相手の方が上。

でも『α性』というプライドが邪魔をして、それを受け入れる事ができないのかもしれない。


だから相当な努力を必要とはするが、『β性』を持った人が上に立つことは納得がいく。


でも……

「妬まれたりしてないの?この人……」

主任という肩書きがあるなら、きっと下にいる人に指示する事だってある。

もしかしたら自分より入社が早い『α性』に……

「大丈夫なんだよ。寧ろ、みんなに尊敬されてる。彼は不思議な魅力を持っている。それは面接の時から思っていたんだ」

「そんな前から彼を知ってるの?」

「あぁ、知っているというか……覚えていた」

「覚えて……いた?」

「彼は面接で言ったんだ……自分は『ゲイ』だと」


別に『ゲイ』がマイナスだとは思わない。

でも人によって捉え方は様々。

聞かれてないのであれば言う必要はない事。


それを何で言ったの?

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