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まだ見ぬ世界へ

第3章 幸福論【序章】

「彼は『質問はないですか?』という問いに、エントリーシートの記入欄に自分が何性であるかを書く必要性について疑問を投げかけてきた」

書くことは強制ではない。

でも書かないという事は自分が『Ω性』であると認めているようなもの。

だから『β性』と偽ってエントリーし、内定をもらう人もいる。

でも結局はヒートで仕事を休むことになり、Ω性とバレてクビになる。

会社では定期的に仕事を休む人ははいらない。



働けないヤツ、使えないヤツ……それがΩ性。



これがΩ性に貼られたレッテル。


でもこの人はβ性。

Ω性の事を気にする事もないし、β性には関係のない事。


「彼は我々、面接官にに答えを求めた。中身を見ず、Ω性というだけで落とすんですか?今知り得たゲイという情報だけで俺を落とすんですか?と」



ましてや採用面接。

父の会社は大企業。

入社するために、人の事よりも自分の事を優先するはず。


なのに……どうして?


この質問をする為に、自分が『ゲイ』だと言ったの?

自分の採用面接なのにΩ性の採用について聞いたの?


「彼がどういう意図を持ってこの質問をしてきたのかはわからない。多く面接する中で自分が目立とうと突拍子もない質問をしてくる人はいる。でも彼は……」

「違ったの?」


そんな人が……いるの?


Ω性を哀れ見る人や、可哀想だって思う人はいる。

でも見てるだけ、思うだけ。

手を差し伸べたり、助けてくれる人なんていない。


「その時はわからなかった。だから彼を採用した。でも入社後すぐにその質問に下心がなかった事がわかった」

「どうやって?」

「彼は接する相手がどの『性』であっても、態度を変えなかった。自らの行動で、俺たちにしてきた質問に対しての答えを示したんだ」

そう簡単にα性の人と対等にはなれない。

α性の人がそれを許そうとはしないはず。


俺は父さんの差し出していた名刺を手に取る。


でもこの人は……それをやって見せたんだ。

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