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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

「で、何しに来たの?」

俺が出ていった理由を知らないはずのない母が今日まで何も言ってこなかったのは、それなりに心情を理解してくれていたからだろう。

それに三田園さんから、俺の様子を聞いていた事もあるだろう。


でも、なぜ突然……会いに来た?


「これが届いたの」

母が鞄から取り出したのはA4サイズくらいの茶色い封筒。

さっきの話なら郵送物は三田園さんが持ってきてたはず。


でも……宛名を見たらピーンと来た。


「いらないよ、それ」

俺は受け取るのを拒否した。


日本プラチナデータ機構からの手紙。

すなわちそれが届くという事は、俺がマッチングシステムで『Ω性』の相手として選ばれたという事。


でも俺は今、結婚するつもりもない。

そしてこれからも。


俺はもうあんな風になりたくない。


誰かを『好きだ』という気持ちではなく、誰か判別もつかないα性の本能でだだ目の前のΩ性を孕まそうとする自分に……



あの時の自分が怖い。



次の日に会った時は和也への申し訳ない気持ちや、気まずさなど様々な感情があったのに……

その中に『好きだ』という感情は一切なかった。


あんなに自ら求めた和也なのに……


「それは認めないわ。受け取って。そしてちゃんと中身を見て」

バンと俺の胸に封筒を押しつけて来た。


母は普段は優しい。

『自分の事は自分で決める』という考えで、他人の意見を押しつける人ではない。

こんな頑なな母は初めてかもしれない。


「わかったよ、見るだけだから」

ごちゃごちゃ書かれた書類なんて読む気もない。

きっと母が見て欲しいのはマッチングシステムの相手。


つまりは俺の『番』の関係になるかもしれない『Ω性』


でも、そのつもりはない。

こんな日の為に俺はお金を貯めてきた。

今回、断った時に発生する罰金くらいは払える。


「嘘……だろ。な、なんで……」

相手は弟の……和也だった。

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