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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

「どういう事か……説明してよ」

言わなくても話してくれる。

寧ろ、そのために俺に会いに来た。


でも……言わずにはいられなかった。


「あなたが和也のマッチングシステムにピックアップされたって事は、どういう事か……わかるわよね?」

「俺と和也は……兄弟じゃない」

母はゆっくりと首を縦に振った。


そこから語られた曖昧な和也の出生と、父と母の子ども、そして俺の弟になるまでの経緯。


「和也は……知ってるの?」

今度は首を横に振った。

「今日、お父さんが話すわ。正直……智がマッチングシステムにピックアップされなければ言うつもりはなかったわ」

俺が一緒に過ごした限り、俺と分け隔てなく和也は家族として育っていた。

いや、きっと今も両親にとっては本当の息子だ。


でもそれは俺も同じだった。



ずっとずっと弟として一緒にいた。

そしてずっとずっと弟を守ってきた。



その過去は変わらない。



でもマッチングシステムで俺と和也は赤の他人。



なら、これからの俺は?


いや、あの日からの俺は?



俺にとって和也は一体……何なんだ?



「あの事は仕方なかったでは済ませられないかもしれないけど……本能には抗えないわ」

わかってる。

本当はわかっているけど、気持ちが追いつかない。

「けどね、正直言うと……智がマッチングシステムにピックアップされて嬉しかったの」

「は?何言って……」

「ホント、母親失格。でも私は……母親なの、智」

ふざけんなって気持ちで睨んだら、母は目に涙を浮かべて俺を見ていた。

「あの日、もし私が発情期でなければ……あなたたちは今でも仲のいい兄弟じゃなかったのかって」

「母…さん」


あの日は仕方なかったんだ。

発情期に入っていた母は部屋に籠っていて、和也の様子を知る由はなかった。


俺だけじゃなかったんだ。

母もあの日の事を俺以上に悔やんで……そして苦しんでいたんだ。

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