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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

「あの出来事で抱いた様々な感情は計り知れないわ。だからこそ、私たちは何も言えなかった。でもね、やっぱりあなたたちには前のように戻って欲しいの」


母は今も自分を責め続けている。


けど、それは違う。

その事を証明するには和也と会うしかない。


「でも……俺の想いだけじゃどうにもならないよ」

お互い本能で動いたとはいえ、俺は襲った側だ。


和也は襲われた側。

負った傷は相当なはず。


そしてそんな和也から俺は逃げた。



俺は和也に会う資格が……あるのか?



「悔しいけど……この書類が2人を会わせるきっかけをつくってくれた。でもそれと同時に兄弟じゃない事を伝えるきっかけにもなった」

悲し気に微笑む母に隠す辛さと、伝える辛さを感じた。

「あなたには酷かもしれないけど、弟……としてだではなく『Ω性の男』として和也の事、考えて欲しいの」

「えっ?」

「……和也の未来の道への選択は迫っているわ」

思い詰めた表情の母に時間の猶予の無さを知った。


和也の未来。


それは『α性』の男性と結婚して『番』の契約をする。

そして優秀な『α性』を持つ子どもを産む。



それが国の……望むこと。



「私たちの願いはね、限られた未来の中で和也が幸せになること。それだけなの。その相手が誰かはわからない。でも……私は知らない人より智がいいと思ったの」

「でも、それは俺と和也が……」


母が望むこと。


それは俺と和也が結婚する事。

すなわち俺と和也が『番』の関係になる事。


「これはあくまでも私の安易な考え。絶対ではない。一番は和也、そして智の気持ちだから」

呆然としていたであろう俺の髪を優しく撫でた。


こんな風にされるのはいつ以来だろう……


「でも……お願い、元の仲のいい兄弟には……戻って?」

あの頃とは違い、いつの間にか深く刻まれた目尻のシワ。

そこには涙が溜まっていた。

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