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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

『お前は何もしなくていいんだよ!』


会社になんの期待もしなくなり、ただ黙々と仕事をこなす日々を過ごしていた時、入社して初めて上司の怒鳴り声がオフィスに響いた。

振り返ると今年入社した菊池が怒鳴られていた。


『お前は仕事するために採用されたんじゃない、『Ω性』だから採用されたんだ』


その言葉に俺は怒りを覚えた。


きっと誰もが、そして菊池自身もわかっていた。


菊池は『Ω性』

だからこそ、自分が採用されたって……


従業員や社員が一定以上いる会社はその全体の約2%をΩ性を持つ者にしなければならない。

『Ω性』にも働ける環境をって国が定めている。

まぁ、国も『Ω性』を無下にはしてないっていう事を示したい。

だだそれだけの為の法律だ。

それに会社だって採用すれば助成金がもらえるし、採用しなければ逆にお金を納付、つまりは罰金を支払わなければならない。

なら、会社の選択は簡単。

その条件を満たすために適当に『Ω性』を採用する。

ただ出社させて時間がきたら退社させる。

そして最低限の給料を払えばいいだけ。


『Ω性』に仕事をする事なんて求めていない。


俺はまだ会社には求められる。

『α性』だから……


努力したって自身を認められない俺。


でも菊地は……その努力さえさせてはてくれない。


そんな事、バカげてる。

努力する人、しようとする人は報われるべきだ。


「菊池、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。わざわざありがとうございます、櫻井さん」

初めて俺は会社で名前を呼ばれた。

「名前……知ってるのか?」

「当たり前じゃないですか。俺、櫻井さんの仕事っぷりをずっと見てて……いつか櫻井さんみたいになりたいって思うんですけど、無謀ですよね」


その言葉にほんの小さな希望の光が見えた気がした。


「α性……だからか?」

「いいえ、違います。櫻井さんだからです」


初めて俺を……俺自身を認めてくれた。

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