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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

「ただいまー」

返って来ないとわかっていても言ってしまう言葉にツッコミすら入れなくなった。

まぁ、一人暮らしだからね。


でももし実家暮らしだとしても迎えてくれる母親もいない。

その前に母親が誰なのかもわからない。


もちろん迎えてくれる兄弟姉妹もいない。

その前に俺に兄弟姉妹がいるのかもわからない。

仮にいたとしてもそれは本当の兄弟姉妹なのか、それとも異母兄弟姉妹なのか。


真偽のほどはわからないけど……

わかっている事は親父と俺は血が繋がっているという事だけ。



それ一番、受け入れたくない事実だ。



父がどんな目的であの施設を作ったのかはわからない。

もしかしたら誰かの入れ知恵なのかもしれない。

それがどういう経緯であれ、あんな施設を作った親父は許されるべきじゃない。

育児を放棄された『Ω性』を持った人たちを保護という名目で監禁し、『α性』を産む道具としてしか扱わない施設。


でも実際にその施設を喜んで利用するヤツがいる。


ひとつはアイツらのように欲を満たすため。

でもアイツらは知らない。

それが相手に望んでもいない妊娠をさせ、知らないうちに自分の子どもが生まれている事実を……


そしてもうひとつ願望を叶えるため。

自分の血を受け継ぐ『優秀なΩ性』を産むため。



そしてその願望が形になったのが……俺。



その願望のために何人の人が親父によって妊娠させられたのか?

その願望が叶えられるために何人の人が産まれたのか?


その事実を知りたくもないし……

何よりそれをしてきた親父は人間として最低だ。



でもそんな親父と同じ血が流れているのは紛れもなく俺。



手を洗うために袖を捲った腕から見える幾つもの切り傷。


その血を俺は何度となく見てきた。

汚い……汚い……汚れた血。


でもその血は幾度となく俺の身体でまた作られていく。

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