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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

トゥルルッ…トゥルルッ…


闇から現実に引き戻す電話は結局、闇。


「…はい」

『迎えを寄越すから今すぐ家に来い』

返事も聞かずに電話はすぐ切れた。


これもいつもの事。

こっち予定も聞かず自分の都合で人を動かす。

これもいつもの事。


地球は自分で回ってるとでも思ってるのだろうか?


ピンポーン…


嘘だろ……

もう、来たのか?


早々に鳴り響くインターホンの音とモニターに映し出された俺を迎えに来た運転手の姿。

「今、出るから」

『かしこまりました』

ペコっと頭を下げると、モニターから消えた。


いつにも増して手回しが早い親父。


俺は疼く古傷が残った手首をグッと掴んだ。



そこまでして何を早くに俺に伝えたいんだ?



逃げ出したい気持ちを必死に抑えて家を出ると、その姿を見つけた運転手は素早く車から降りて後部座席のドアを開ける。

サッと乗り込むとパタンとドアを閉じ、素早く運転席に戻っていく。

無駄のない動きな上、素早い行動。

一刻も早く連れて来い』と親父に言われているに違いない。


「なんの話か……聞いてる?」

車の混み具合を確認しながら最短ルートを模索しながら運転している背中に遠慮がちに声をかけた。

「聞いてはおりませんが、潤さまをお呼びした理由については見当がついております」

「それって、なに?」

「それは……すみません」

まるで話を断ち切るかのように信号は青に変わり、車は再び動き出した。


これ以上は何も情報は聞き出せないだろう。


色々と思考を巡らせても俺が何かをした覚えはないし、予想すら出来ない。


でも、それは仕方ないこと。


なんたって久しぶりに親父と顔を合わせる。

確か、大学の入学式以来。

でもそれは、滅多に会うことのない息子の門出を祝う為ではない。

晴れの場で自分の隣に立たせ、自分の血を受け継ぐ『優秀なα性』を自慢したいだけ。


親父にとって俺は、自己を満足させる存在でしかないんだ。

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