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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

コンコン…


『入れ』

「失礼します」

重厚感のある革張りのウィングチェアに座る父。

「ここに座れ」

「……はい」

言われた通り、対面にあるウィングチェアに腰を下ろした。

「まずは、乾杯だ」

俺たちの間にあるテーブルから赤ワインを取ると、オープナーを使い開けていく。


乾杯?

一体、何に対してだ?


その疑問をぶつけたいが、父が何かをしている時にどんな内容であっても声をかけることは厳禁。

その行為は父に異見すると同じ事。


「グラスを持て」

「はい」

赤ワインを注がれたグラスをスッと差し出される。


そして言われたことは何であっても絶対に逆らってはいけない。

その行為は父に歯向かうと同じ事。



全てにおいて……父は絶対的な存在。



「乾杯」

その言葉に会釈して応え、父より少しグラスを下げて軽くぶつけると甲高い音が鳴った。

「……はははっ、あははははっ」

一口流し込むと、声高らかに笑い始めた。


父がこんなに笑った姿、俺の中では記憶にない。

そしてこんなに機嫌がいい事も……


「お前に、いい知らせが届いた」

そう言って立ち上がると、書斎デスクに向かい引き出しを開ける。

「これを見ろ」

1枚の紙を取り出すと、取りに来いと言わんばかりにその場で俺に向けて差し出した。

「はい」

俺はもちろん文句も言わずそれに従った。


受け取ったのはA4サイズくらいの用紙。

そこに載っていたのは見ず知らずの人の個人情報と写真。


「喜べ。お前はマッチングシステムでピックアップされたんだ」


父の喜ぶ理由はこの紙に集約されていた。


これは日本プラチナデータ機構から届いたもので、ここではより『優秀なα性』を誕生させるために、遺伝子レベルで全国にいる未婚、つまりは番の関係になっていない『α性』と『Ω性』の相性を調べる。


その結果……俺は選ばれた。


より『優秀なα性』を産むと言われる『Ω性の男』の相手として。

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