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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

こういう言動はβ性を持つ者にとっては嫌味でしかない。

暗にβ性をバカにしていると捉えられかねない。


世の中のほとんどは『β性』で関わりは避けて通れない。


『α性』であっても俺のように『β性』が上司の場合もある。

ましてや取引先となると、自分がα性だとしたって相手の方が上。


それはごくごく当たり前で常識のはず。


でもそれが『α性』には当てはまらない。


α性=優秀

それがα性自身の認識。


自分が格下になるなんて考えられない。


「それ以上は言うな。自分の価値を下げるぞ」

それに釘を刺すのが俺の役目。

「全てが上手くなんていかない。社会ってのはそんなもんだ。慣れるしかないんだよ」

ポンと肩を叩くと、もの凄い勢いで俺の方に顔を向けた。

「先輩が必死にプレゼンしたのに……それに聞く耳を持たないヤツを許せって言うんですか!」

怒りに任せてガンっとデスクに拳を叩きつけた。


その音に再びオフィスの空気がピーンと張り詰めた。

けど、それはすぐに柔らかいものに変わる。


チラッと横を見ると、ポカンとしていた表情から顔が段々と緩んでいく。

「お前ぇー、良いヤツだなぁ!」

「べっ、別に……」

グイッと肩に手を回されると、照れくさいのかソッポを向いた。


うん、うまく付き合えそうだな。


いつかは上司である俺も含め、『α性』を持つ者が上の立場になる。

例えそれが後輩であっても……


α性=優秀

これはやっぱり間違ってはいない。


どんなに大多数を占めるβ性が束になって努力しても、生まれ持った能力を持つ一人のα性には勝てない。

でも『α性』一人では出来ることに限界がある。

だからこそ第2の性の垣根を超える信頼関係を築かなければならないと俺は思う。


そんな理想の関係をこの会社では築くことが可能だ。



でもそれは所詮……ここだけだ。


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