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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

コンコン…


「はい」

「営業部の相葉です」

「入ってくれ」

「失礼します」

緊張をほぐすために大きく深呼吸し、ドアを開けた。

「申し訳ないね、急に呼び出して」

スッと立ち上がるとニコッと俺に優しく微笑んで見せる。


面談で会った時も今もだけど、その振る舞いに『α性』独特の高圧感はない。

寧ろ、全てを包み込むような優しさを感じる。


社長に失礼かもしれないけど、不思議な魅力がある人。


「いえ、大丈夫です」

「立ち話もなんだからこっちに座ってくれ」

黒い革張りの応接用ソファーに腰を下ろすと、反対側に座るように促される。

「はい、失礼します」

軽く会釈をし、ゆっくりと俺も腰をおろす。

「君の噂は聞いているよ。営業成績もだけど……なにより物怖じしない性格だって」

「すみません……態度が大きいですよね」

「いやいや、そんな風に思わないで欲しい」

クスッと笑って見せる姿に怒ってはいないのはわかるが、視線は社長から逃げるように落ちていく。

「私は感心しているんだから」

「えっ?」

思ってもみない言葉に驚いて視線を上げた。

「面談での君の質問に私は答えられなかった。いや、答えることは出来たがそれを実行できているとは……自信をもって言えなかった」

遠くを見つめていた視線が俺の視線と合わさった。

「でも君は私が答えようとして事を自ら実行していた。それは決して簡単なことじゃない。素直に凄いと思ったよ。だからこそ君を主任に抜擢したんだ」


「凄くなんか……ないですよ」

本当は嬉しかった。

そりゃ、あんな質問をすれば印象には残る。

それでも多くの社員を抱えている中で社長は俺を見てくれていた。

誰かからの『情報』ではなく社長自身の『目』で。


そしてそんな俺を認めてくれていた。


大勢多数の『β性』の一人である俺を……



でもその喜びはあることを俺に再認識させた。


『第2の性の垣根を超える信頼関係』


そんな理想を掲げ、それを可能にする会社にいる俺が何よりも……

『β性』に縛られているんだって。

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