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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

「何人か……俺のせいで辞めてしまった人もいます」

さっきみたいに全てのα性が俺の態度を受け入れる訳ではない。

『β性のくせに』と捨て台詞を吐いて辞めていった人も1人や2人じゃない。

「ははっ、気にする事じゃない。そんなヤツは私の会社には必要ない」

高らかに笑い飛ばす社長の姿にホッと胸を撫で下ろした。


でも俺は思う。

いくら社長が必要ないと言っても『Ω性』にとっては必要な存在。

そして社長がいくら認めようとも『β性』である俺の存在価値はあの時と同じで……無い。


それは一生、変わることはない。


「会社にとって……いや、今は父親として君は私にとって必要な存在なんだ」

さっきと同様、俺を認めてくれる発言。


でも……父親として?

それは一体、どういう意味だ?


「実は今日来てもらったのは、君に会ってもらいたい人がいてね」

「会ってもらいたい……人、ですか?」


話の流れから考えると……お見合い?

得意先の娘さんとの縁談、なんて事もあるのかもしれない。

でも社長は知っているはずだ。


俺が『ゲイ』であることを。


もし本当に縁談話なら、いい返事は絶対に出来ない。

会うこと自体、先方に失礼だ。


「あの、俺……」

社長の動きを見て俺は、言いかけた言葉を寸前で止めた。

スッと立ち上がり社長机に向うと、飾ってある写真立てを手に取った。


そこに飾る写真は家族写真以外はないはず。

家族を俺に紹介したいのか?


いや、待てよ。

やっぱり会わせたいのは女性で、社長の娘さんじゃないのか?

自惚れだけど……

自分が気に入った相手を養子に、なんて事もあり得る。


ん?

でも、それはおかしい。


社長は『α性』

きっと奥様は十中八九『Ω性』


なら、娘さんは『α性』もしくは『Ω性』

どちらであっても俺に紹介するのは変だ。


「息子に会って欲しいんだ」

「……えっ?」

「『Ω性』の息子に」


社長は俺が『ゲイ』であることを忘れてはいなかった。

でも肝心なことを忘れてる。


俺が『β性』であることを……

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