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まだ見ぬ世界へ

第4章 幸福論【登場人物】

「驚かせてしまったね。でも息子にはもう……時間がないんだ」


『時間がない』という言葉にまた浮かぶ疑問。

ならどうして俺に紹介しようとするんだ?

『β性』の俺に紹介すること自体が時間の無駄ではないのか?


再び社長がソファーに腰を下ろすと、持っていた写真立てを俺に差し出した。

「拝見させていただきます」

受け取った写真立てに飾ってある写真を見ると、社長と恐らく奥様、そしてその間に2人の男の人がいる。

「君に紹介したいのは私の隣に立つ次男の和也だ」


写真で見る印象としては2人共、男らしいというよりも優しい雰囲気。

特に次男の和也さんは……可愛いという表現が合う容姿。


そしてそんな風に見てしまう自分はやはり『男』が恋愛対象なんだと……


「ありがとうございます。あの……正直、話が見えないんですが」

写真立てを返しつつ、俺は正直に社長に本心を打ち明けた。

「実は息子に日本プラチナデータ機構から書類が届いたんだ。それが何を意味するかは……わかるよね?」

「……はい」


日本プラチナデータ機構。

ここでは未婚の『Ω性』と『α性』との遺伝子レベルでの相性を調べ、『Ω性』に対して相性が良かった『α性』が数人ピックアップされる。

そしてその結果を該当した人に通知し、最終的に『Ω性』『α性』の中の1人と結婚……つまり『番』の契約をする。


全ては……『優秀なα性』を産むために。



そしてこれがあの人が言った自分の価値を見出だすこと。



『優秀なα性』を産むことが出来るのは『Ω性』だけ。

それが『Ω性』の価値。


ずっと虐げられてきたΩ性が必要とされ、そしてα性を産めばより自分の価値は上がる。

その為にはα性との関係は必須。

『β性』とでは『α性』を産むことはほぼ不可能。


「私はね、和也にひとつでも多くの未来への選択肢を与えてやりたいんだ。その為に……君は必要なんだよ」

社長の言っていることはめちゃくちゃだ。

そもそもΩ性の未来にβ性は必要ない。


選択肢を増やすことなんて俺には出来ないんだ。

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