まだ見ぬ世界へ
第5章 さよならの恋人
「「かんぱーい」」
雑誌の撮影が終わり、一緒だった潤くんとご飯を食べに来た。
「ホント、オシャレな店知ってるよね」
「ん、そう?こんなんじゃない普通」
潤くんの普通は俺にとってはもう……未知の世界だ。
「適当に注文していい?」
「おまかせしまーす」
「あんま空きっ腹に飲むなよ」
ジョッキを口に当てたまま中身を確認すると注がれていたビールの半分以上が減っていた。
「へーい」
優しい潤くんだから俺の身体を心配してくれてるんだろうけど、もし体調が悪くなったらこの食事会の意味がなくなる。
「ちゃんと食ってる?」
「えっ?」
潤くんが俺の顔に手を伸ばして頬を包み込んだ。
「ニノの輪郭好きだけど……痩せすぎ」
「食べてるよ。食べないと木村くんに怒られるもん」
ちょっとだけ嘘をついた。
『検察側の罪人』の撮影が始まったから、木村くんと食事に行ったり、撮影現場で昼食を取る事も多くなった。
でもそれ以外はあんまり……食べてない。
「潤くんだって食べてる?今、忙しいでしょ?」
潤くんは潤くんで公開されるナラタージュの番宣で忙しい。
「まぁね、でも……色々と考えなくていいからさ」
「そうだ…ね」
パラパラとメニューを流し見しながらあまりにもサラッと本音を言うから、俺もつられてしまった。
「潤くんは……どうなの?」
「どうなのって、何が?」
「なにがって……うーん、何がだろう?」
それ以上の答えも出ず、俺はまたビールを口に流し込む。
潤くんもそれ以上何も言わなかったから、俺もそれ以上は追及しなかった。
だって……話す事を避ける事なんて出来ない。
コンコン…
「失礼します、注文お伺いしてもよろしいですか?」
「えーっと……」
潤くんはザッと一通り注文した。
注文した品が揃えば暫く、誰にも邪魔されないだろう。