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まだ見ぬ世界へ

第5章 さよならの恋人

「あー、もう……無理」

「ご苦労、ご苦労」

俺の家に到着すると、酒類がパンパンに詰まった袋をテーブルに置いた。

「あとは用意するから、適当に座ってて」

「あっ、充電いい?」

「そこ、伸ばしたコードあるから使って」

「サンキュ」

ご飯の片手間に充電しながらゲームをするので延長コードは必需品だ。

これならリーダーも飲みながらでも操作できるだろう。

「直飲みでもいい?」

「いいよー」

数本を残して、あとは冷蔵庫に酒類をしまい、おつまみ類は適当にお皿に盛り付けた。

「しゃれっ気ねーな、こりゃ」


テーブルに並ぶビールと乾き物。

その見た目はまるで週末のおっさんの過ごし方。


「いいじゃん、胃の中に入れば一緒だし」

「それもそうだね」


別に気を遣った発言ではないと思う。

それでもおもてなしが出来ない俺にとっては有り難い。


クスッと互いに目を合わせて笑うと、プルタブを開ける。

「ゴチになりまーす」

「はいよー」

リーダーに向けて缶ビールを掲げ、グイっと飲む。

「やっぱ、仕事終わりのビールはうんめーな」

「そうですね」


部屋には小さな互いの租借音。

無言は嫌いじゃないし、気まずくもない。


いつもならそのまま過ごしても問題ないけど、今日はそうもいかない。


話さなきゃとは思うんだけど、きっかけが見つからずお酒のペースだけが互いに早くなっていく。

「あのさ……」

「ん?」

「しょんべん、いっていい?」

「あ、うん…いいよ」

遠慮がちにリーダーが声をかけたと思ったら、スッと立ち上がってトイレに向かった。

「もー、なんだよ……」

一瞬身構えた身体の力が一気に抜けた。


やっぱ、ここは……俺が話さなきゃな。


ジャーっと水の流れる音がすぐに聞こえたら、もうすぐ戻ってくるだろう。

「何本か、ビール取るぞ」

「はーい」

数本を手に持ってリーダーが腰を下ろした。


よし、今……だな。

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