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まだ見ぬ世界へ

第5章 さよならの恋人

「不安だった。みんながどんな反応をするのか。そうさせるのは自分なのに……」

目線は再び落ちて、ギュッとズボンを掴む手を見ていた。


今思えば、いつもと違った行動をしていた。

だぶん直前まで迷っていたんだろ。


言うべきなのか……

言わないでおくべきなのか……


「でもね、ニノなら……空気を変えてくれると思った。逃げたんだ俺、みんなの反応から……」

確かに俺はリーダーの予想通り、空気を変えた。


でもそれはリーダーのためなんかじゃない。

自分があの空気に耐えられなかったからだ。



寧ろ、逃げたのは俺。



戻したかった。

俺を祝ってくれる時間に……


「だから俺はニノの誕生日を選んだ。ニノの誕生日を……利用したんだ」

「もう……いいよ」

顔を上げてって意味も込めて、ポンポンと肩を優しく叩いた。


もうそれ以上、責めて欲しくなかった。


「ホント、ごめん……ゴメンっ」

「いいってば……俺は利用されたなってこれっぽーーーーーっちも思ってないし」

ちょっとでも笑って欲しくて大袈裟に言ってみた。

「でもさ……」

「もう、しつこいっ!」

「うぐ…っ」

それでも続けようとするリーダーの頬を包んで無理やり顔を上げさせた。

「寧ろ、嬉しーの。だって俺を頼ったって事でしょ?俺ならって思ってくれたんでしょ?」

遠慮がちにコクっと頷いた。


きっと俺の反応は想定外なんだろう。

普段はこんな風に素直な気持ちを口にしない。


恥ずかしいけど、本音を伝えた。


だって……嬉しかった。


翔くんでもない。

相葉さんでもない。

潤くんでもない。


『俺』ならって思ってくれた事が……


「ニノ……」


……えっ?


俺は一瞬のうちにリーダーに引き寄せられ、抱きしめられた。

「ありが……とう」

震える声と、首筋の濡れた感触に自然と手がリーダーの背中に回って包み込んでいた。

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