俊光と菜子のホントの関係
第7章 『少しだけでも……』
*
菜子が誘った花火大会、当日。
会場の最寄り駅に着くと、時計の針はもうすぐ19時を回ろうとしている。日もだんだんと傾き、空が徐々に藍色へと染まりつつあった。
駅のホームでも、改札の外でも、花火大会目的の客で大混雑だ。
家族連れ・カップル・友達同士など。様々な人達が同じ方向へと歩いていく中、俺と智樹は駅前から動かずに、菜子と明里ちゃんを待っていた。
「……じゃあ、その明里ちゃんてコの家の美容室で、浴衣を着付けしてから来るんだな?」
「あぁ。それと、近所の呉服屋の協力を得て、美容室で浴衣のレンタルまでするらしくて。だから菜子も、可愛い浴衣を借りるんだーってウキウキしてた」
「そっかー。いやー楽しみだなぁー、女子高生の浴衣姿」
智樹もここに来てから、ずーっとウキウキしてる。
その智樹の今日の服装は、白系のトップスにベージュのチノパン。そして、いつものネックレスを身に付けている。
こうして見ると、智樹ってファッションにこだわってるよな。
ただの黒の半袖のシャツにただのデニムのパンツという、ファッションに頓着のない俺とは全然違うし。かといって、智樹みたいな格好は、俺には絶対似合わないし。
「……俊光も楽しみだろ?」
「え?」
「菜子ちゃんの、浴衣姿」
智樹の不意打ち冷やかし発言に、顔が一気に熱くなった。
「お、俺は別にっ。菜子の浴衣姿なら、何回も見たことがあるし」
「どうだかねぇー。気持ちが変わってから見るのとでは、また違うんじゃね?」
「そんなことはっ……」
照れ隠しで否定しようとしたら、
「あーっ! 俊光さーんっ!」
雑踏の中から、聞き覚えのある声がした。
「……あっ。明里ちゃんだ」
来た来た。
明里ちゃんの後ろに、菜子もちゃんといる。
人ごみで、首から上しか見えないけど、二人ともこっちを見ながらちゃんと向かってきてる。