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「あの……俊光君？」


　また俊光君の背中に向かって話しかけた。


「……ん？」

「私、もう大丈夫だから。その……手、もう離しても大丈夫だよ。あのチャラ男も、もういないし。ね？」

「ダメだって」

「へ？」

「まだ繋いでる。この人混みで離したら、また別の変な野郎が寄ってくるかもしれないし」

「でも、俊光君がそばにいれば――」


「それでも今はっ……離したくないんだよっ」


「えっ……」


　あまりに言い方が強いから、ドキッとして身が縮こまっちゃった。


「……智樹と明里ちゃんと合流するまでは、手を繋いでるから」


　俊光君……よっぽど私のことを心配してくれてるんだ。


　じゃあ……そしたら――


「そしたら、明里と智樹さんと合流するまで……
　俊光君のこと、彼氏だと思ってても……いい？」


「……え？」


　今ので、俊光君が少しだけ顔をこっちに向けた。と同時に、目が合ったら気恥ずかしくなりそうだった私は、パッと下を向いた。


「もう、他の人から声をかけられないように、今だけ俊光君のこと……彼氏だと思い込んで歩くから」


　なんて大胆なことを言ったら、ますます顔が上げれなくなっちゃった。


　どひゃーっ！　は、恥ずかしいよぉーっ！


　けど恥ずかしくても、手を繋いでいてくれるなら、それぐらいの気持ちで繋ぎたい。

　ただのお荷物な妹としてじゃなくて、嘘でも彼女として繋ぎたい。

　俊光君に気持ち悪いって思われるかもだけど、

　もう少しだけお兄ちゃん（俊光君）を――

　私の彼氏（俊光君）にしたい。


「…………」


　俊光君、何も言わなくなっちゃった。

　やっぱり妹がこんなこと言うのって……気持ち悪いよね。