俊光と菜子のホントの関係
第10章 『抑えきれなくて』
「ところでさぁ、俊光君……。お父さんとお母さんって、忙しいね……」
菜子が寂しげに目を少し細め、目の前の二つの空席を眺めながら、俺に呟いた。
「うん。そうだな……」
母さんは、全国チェーンのファミレスで働くパート。若い頃は違う店舗で、バイトとしても社員としても働いていたことがあるって言ってたな。
父さんは、母さんが務めるファミレスを手掛ける本社の社員。当初は店長からスタートして、徐々に昇進を重ねていき、今じゃ立派な部長。
父さんと母さんは、父さんが当時店長を務めていた店舗で出会って、それから結婚した……だっけ。
俺と菜子の事実を隠したいからなのか、いつ結婚したのかはハッキリと教えてくれたことがなかったけど、
たぶん二人が結婚したのって……俺が三才過ぎぐらいの頃かもしれない。
そう思うのは、四・五才ぐらいからの記憶はなんとなくあって、その頃を思い出す限り、俺はすでに父さんを『お父さん』と呼んでいたから。
それに……あの父さんが母さんと結婚した後に、他の女性と、世間から白い目を向けられるような関係に陥って、子供(菜子)を孕ませた……ていう過ちを犯すような人間には、とても見えないから。
だからきっと、菜子が生まれた後で、何らかの事情でそれぞれの相手とちゃんと別れてから、父さんと母さんは一緒になったんじゃないかと思う。
「…………」
なんて勝手な憶測ばかりしてるけど、本当はどういう経緯で夫婦になるまでに至ったんだろうな……。